SLIDIN' & SLIPPIN'- 松浦善博(ブログ)

ギターの太刀川伸一がツイストを辞めるという。もう決めたという。アメリカへ行くらしい。ウマさん(太刀川)は麻布のマンション『麻布という響きが何ともお洒落やなあとそのころ思っていました。.いや、今も思ってます。』を引き払って三軒茶屋の僕の家へ一時滞在したり大阪の実家へ行ったり相変わらずのロックンロールな日々を過ごし、「ほんなら行ってくるわ。松、あとはたのむで。今晩の飛行機や！」と電話してきました。

『練習がはよ終わったら空港行くわな』と言ってはみたものの国際空港はすでに羽田から成田に移転しており目黒のヤマハから２時間はかかるらしいし何やら練習に身が入らへんようになってきた。ウマさんはシンプルな人でいっさい余計なことを言う人やなかった。そやから成田には是非見送りに行きたいと思っていたのでありました。そして有り難いことにその日取材に来られていた雑誌社の方に無理をお願いして成田まで連れて行って貰えることになり何とかギリギリセーフで出発に間にあいました。

ウマさんは嬉しそうな顔はしつつ、「リハさぼったんちゃうやろな。きびしい世界やからちゃんとやらなアカンで！」と言うと一度も振り帰りもせずエスカレーターで出発口へ降りて行きました。大上明君も休んでるしウマさんはアメリカへ行ってしまうしこれはえらいことになってしもたぞ。いちばん苦手なワンギターやんか。しかしここはやるしかない。ぐずぐずしてられへんで。

二人で弾くパートを一人で弾けるようにアレンジしていきました。何度かはワンギターで練習はしていたが慣れるまでにちょっと時間がかかった。きっと正式な加入発表がある前に雑誌やなにやらの取材がたくさんあったはずなんやけどここいらあたりのことをよう記憶していないのであります。ホンマはいちばん嬉しいであろう時期やと思うのですが憶えてへんのです。でも９月１日にメンバーになったのだけはよう憶えています。なんでやいいますとその日の仕事があの有名な森永ハイクラウンチョコレートのコマーシャル撮影やったからです。

ギターを弾くだけが仕事やと思ってたらところがどっこい。暗いスタジオセットの中で胸のポケットからチョコレートをだす。するとあら不思議チョコレートが光りよるんですなあ。てな具合のなんともシンプルな構図のいかにも時代を象徴したＣＭではありましたが膨大な時間がかかりまして慣れない芸能の仕事に心身ともに疲れ果てたデビュー初日とあいなりました。

そない言うと１７歳のときにハワイでペプシコーラのＣＭのエキストラでコマーシャルデビューは飾っておったぞ！ただあの時は無責任に浜辺を走ったりするだけで良かったしなにしろ地味な寮生活の合間の息抜きになったし派手な世界を一瞬垣間見れちゃったりもしてええ思い出になったのでありました。しかーし今回はちゃうでえ。なんせ責任がありますもんで。やれ目力（めじから、の漢字はこうかな？それとも眼力？）がないやの、手の位置が微妙でドラえもんみたいやの、と言われながらの撮影やったから参ったのでありました。今となったら絶対誰も持ってないであろうこのＣＭをもう一度みてみたいなと心から思う今日この頃。なにやら文章もぐにゃぐにゃになってきたので音楽、そしてバンドの話にもどることにしましょう。

ＳＯＰＰＯ　という曲が新しいシングルに決まりギターソロもスライドギターでということになりました。レコーディングはリズムギターとソロを分けて弾いたので問題はなかったのですがいざこれをライブやテレビで１人で弾くとなると困った問題が生じてきた。ソロの直前にスライドバーをマイクスタンドからとってたら一瞬音がとぎれる。そやし僕はバーを薬指にはめてるのであのお決まりのロックンロールのリズムギターが弾かれへんことも判明してきて何か良い知恵はないものかと考えました。デュエインはもちろん薬指、ローエルジョージは小指。ウーン。あっ、そうかディッキー　ベッツは確か中指やったな

しかし中指にスライドバーをはめるのは生まれて初めて。ちょっと力がはいりすぎる感はあるもののこれならコードを弾きながらスライドに瞬時に突入可能なことがわかりホッとしました。ちょいと時間はかかりましたがなんとかええ具合に弾けるようになってきました。今では曲により小指、薬指、中指を使いわけられるようになりました。余談になりますが（そもそもこのコラム自体が余談のかたまりみたいなもんですが）人差し指と特に親指はスライドには向いていませんです。

ＳＯＰＰＯのレコードジャケットは加納典明さんが撮って下さることになりました。
このときも目力関連の話題に終始しつつ撮影が進行していきましたが加納先生は親分肌のアニキのような方でずいぶん新人の気持ちをリラックスさせてくれはりました。無事撮影が終了し出来上がったジャケットを見た鮫島秀樹が「松ちゃん、悪魔の手毬唄みたいやなあ」と言うたんは有名？？な話です。いつもタイムリーにおもろいのかおもろないのか分からんことを言うて僕たちを楽しませてくれる鮫ちゃんでした。

鮫ちゃんとは家が近かったので仕事の行き帰りはいつもいっしょでした。といいますかタクシーで家へ迎へに行き帰りは送る。いわゆる送迎つきの生活を鮫島秀樹は３年近く送っていたことになります。なんとも鮫ちゃんのハッピーでラッキーな人生を象徴したひとこまではあります！！でもこの音楽の世界で生きていくにはどないしたらええのかをことあるごとに教えてくれたのも鮫ちゃんでした。これはツイストの時から現在まで続いています。ホンマは感謝してるんであります。

秋のツアーのリハーサルのため合歓の郷へ合宿に行くことになりました。実をいうと僕は合宿が大の苦手でこの時も参ったなあと思っていました。僕の頭の中での合宿イコール（１）いつ終わるか分からん練習、（２）うまく作れたためしのない自炊、（３）豪快なイビキ付きの雑魚寝、この３点セットに今回も１週間は長いなあと。ところが案ずるより生むがなんとやらで行ってみてビックリ。練習場はホンマモンの舞台で広くてキレイ。部屋もゴージャスで広くてキレイ。お風呂は温泉のような（ホームページをみましたところホンマの温泉でした。泉質はナトリウム塩化物泉です）大浴場で当然広くてキレイ。そしてゴハンがメチャメチャうまい！もういうことなし。これはもう合宿という範疇を大きく逸脱した超豪華リゾートロングステイプランを楽しみつつ「ちょっと音出してみるか！」がオマケについてくるぞ的優雅な観光旅行でありました。いや、合宿なのでありました。

でも実は練習はちゃーんとやったしアンプの音があまりにも大きいのでツアーのために用意したアンペッグアンプを使わずにフェンダースーパーリバーブを舞台の袖で鳴らすという新方式が考案されたことやとにかく起こること全てが僕には新鮮で。神本宗幸君と毎晩のように温泉に入ったのがイチバンの思い出やなあ！！、とは口が裂けても言えません。そんなわけで無事合宿も終了し（ホンマはそのまま長逗留したかった）ツアーは始まろうとしていました。

そんなツアー前でも毎日テレビ出演や取材がありまして予定表をみると休みというのが１日もないことに気がついた。「えらいこっちゃ。休みあらへん。どないしょう」しかし時すでに遅し！超忙しいバンドにはいったんやから。休みがことのほか好きな僕もバンドの予定を変えてもらうわけにはいかん。仕事があるうちが華と申しますし日々をきっちりと過ごしていきました。

ツアーは新メンバーということもあり僕をかなりフューチャーした構成で緊張もしましたがやりがいのあるライブになりました。３０数公演があっという間に終了。もちろんツアー中もテレビ、ラジオ、取材は毎日のようにあって休みが全くないまま年末に突入する勢いでした。人気がある(僕の人気という意味とちゃうでえ!)というのはこういうことなんやと知りましたしきっと一番充実していた日々やったんやろうなと思い返しています。