東京に引っ越してからなのか、まだ神戸にいたときやったのかは忘れてしまったのですが、ある日ツイストのギタリスト太刀川伸一から電話がかかってきました。あっ、思い出した神戸の家で電話をとったシーンが頭に浮かんで来た。そやそや、フェンダープリンストンリバーブとレスポールを新幹線で運んだのも思い出したぞ。いやいや最近物忘れすることが多く全く困ったもんであります。
ほんでなぜアンプやギターをわざわざ新幹線で東京まで運んだのかというと、ウマさん（太刀川伸一）がいきなり「オー 松、ツイストのレコードで1曲弾いてくれへんか」というのである。ツイストにはウマさんと大上明の二人のギタリストがいるので「なんで僕が弾くのん？」と問うと「スライドやがな」というではありませんか。これは正直うれしかったですね。
当時ツイストといえばゴッツイ人気バンドで個人的にも宿無しや知らんぷりが好きやったのでホンマ願ったりかなったりちゅう感じで重たいアンプもなんのその。渋谷にあるエピキュラスというスタジオへ跳んでいきました。スタジオミュージシャン的なレコーディングは桑名君で経験してはいたものの初心者のようなもの。緊張しつつもいつものようにグアーンと弾きますとメンバーもプロデュ—サーもえらい気にいってくれてついでにリズムギターやリフも弾いてよということに。
ゴッツイロックンロールな曲に仕上がっていって僕も気持ちええギターが弾けたしメンバーも喜んでくれて、ホンマにええ一日になりました。
この録音の時と前後して東京へ引っ越したので前にお話したＱ'ｓ ＢＡＲあたりでツイストのメンバーともちょくちょく会うようになり、アンのバンド、桑名君のバンド、ツイスト、そしてサザンのメンバーなど、入れ替わり立ち代わりあまり飲めないお酒を飲むふりしながら楽しいひと時を過ごしてました。そしてなんといっても忘れられないのがアンの家でのお食事会。ホンマによくごちそうになりました。アンのお母さんには本当にお世話になりました。仕事が終わったあとのお鍋はこたえられないおいしさでしたなあ！メンバーを家族のようにして下さって慣れない東京生活を支えていただきました。
アンといえばもうひとつ懐かしい？思い出があります。旅先のホテルの部屋で行うかくし芸大会です。大会といっても参加するのはアンとメンバー、スタッフ、そしてそのとき共演した人達だけの地味な会やったんですが、苗場スキー場での歌番組の収録後もいつものようにアンの部屋に集まり、その日は岩崎ひろみさんも参加して、さて出し物は何にするかと思案したものの、お決まりは銭形平次ぐらいしかないもので、狭いバスルームで浴衣に着替え、パッチ（ズボン下）を穿きルームキー（当時のキーは長い棒にキーがついてるものが多かった）と10枚ほどの5円玉を用意して、いざ登場！しかしこれがメチャしょうもない芸でしてただキーを十手にみたてて「御用だ！御用だ！」と叫びながら5円玉を下手人役のメンバーめがけて投げるだけというお粗末なもの。そやけどみんな腹を抱えて笑ってくれるんですねー。実にたわいのないことをやっとったわけであります。
ブラッドショットの小林お兄ちゃん（現エピックレコード社長）演ずるバスガイドもなかなかいけてたなー。芸能界はそれはそれは派手なところやと聞いておりましたがまさかこれだけ地味やとは夢にも思っていませんでした。うわさを聞きつけたツイストの神本宗幸は「松チャン、銭形平次やってよ」とテレビ局の楽屋で会うたびに言うてくれてました。記憶にはないけれど僕のことやからどこかの楽屋でやったかもしれんなー。こまったもんやなー。
アンルイスツアーもロック色の強いコンサートになり、もう完全なるロックンロールショウでした。映像が残ってたらぜひ観たいなと思いますが、ないやろなあ！カバーもええ曲いっぱいやりました。ホテルカリフォルニアはギターが3人やから完コピ！、ジャニスのムーブオーバー、クリスレアのフールなど、ホンマ、ロックでした。
そんなある日ツイストのマネージャー安井君から電話があり、中野サンプラザのコンサートにＰＡ ＰＡ ＰＡを弾きにこないかと誘ってくれるのです。ちょうどその日はオフやったのでアンのマネージャー清水さんの許可をもらいゲスト出演することが決まりました。ツイストのメンバーとはその頃はもう気心も知れてたのでリハーサルまでは楽勝やったんですが、「今日はライブを客席で観ててその場から直接ステージへあがってくるという演出になっています」との発表があり、これを聞いた僕はいきなりぶっ飛んでしまいました。
そしてコンサートが始まりました。そこにはライブを観ながらすでに舞い上がってしまっている自分がいました。そやから自分が呼ばれるまでどんな曲をやったのかなんて全然覚えてはいないし懐かしの中野サンプラザも何もかも全部どっかへ行っちゃてます状態であったと思います。そしていよいよステージに呼ばれイントロがはじまりました。ところが不思議なことにあれだけ上がってたはずやのにツイストのみんなとの雰囲気もばっちりで58年製レスポールのめちゃくちゃええ音にビックリしてしまいました。
ちょっと話がツイスト時代のことに飛びますが、安井君が「松ちゃん、あのサンプラザのＰＡ ＰＡ ＰＡを超えるＰＡ ＰＡ ＰＡ弾けてないんちゃう？」とよく言われてました。そのころはヤッサン（安井君）うるさいなー、ちゃんと毎日やってるのにどこがちゃうねんと思っていましたが、きっと弾けてなかったんや思います。サンプラザの日は特別。きっと弾かされていたんやと思います。あんなええレスポールの音出たことないもんなー。ツイスト２ｎｄにはいっているスタジオバージョンもええです。久しぶりに聴いてみましたがメチャ懐かしかったですしやっぱりええ音してました。ひょっとしたらもう弾くことがない曲かもしれませんが僕にとってはゴッツイ大切な曲のなかのひとつなのであります。でもこの時はまさかこのＰＡ ＰＡ ＰＡを毎日のように演奏するバンドに入ることになるとは夢にも思っていませんでした。
