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第38話 すばる

アイドルワイルドサウスの難波正司君から電話がかかってきた。1983年のお話です。

ああでもない、こうでもない、といつものように四方山話をしていますと急に難波君は真面目な口調でこう切り出した。「松浦、谷村新司さんの音楽どない思う?オレはアリス時代からバックバンドやってるねんけどライヴなかなかええよ。それでな、今度のツアーでハードなロックをコンサートの前半でやるんやけど参加してくれへんか?」

僕は一度難波君といっしょに谷村さんの家にお邪魔したことがありゴッツイ楽しいお話をいっぱい聞かせてもらった上、上等なすき焼きまでご馳走になったので二つ返事でオーケーしました。しかし不安が全くないわけではなかった。今までロック一本でやってきたのでまるで譜面は読めないし、アコースティックギターも上手くないのでその辺りを難波君に率直に話しましたところバンドにはアコースティックギターの名手 田代耕一郎君がいるからエレキだけガーンと弾いてくれたらええねんということでまるで問題はないことがわかり一安心。

ツアーで演る曲の音源と音符がギッシリ書き込まれた譜面を受け取りリハーサルに備えました。家で1人で練習をはじめますと、思っていたよりハードなロックやったのでビックリやら嬉しいやらで順調に曲を憶えていきました。もちろん譜面は一切読み?ませんでした。エレキだけをやればええと思っていたのでエレキギターパートだけをコピーして1人練習は終了しリハーサル初日がやってきました。さすがに初対面のメンバー、スタッフの方が多かったので最初は緊張しましたが、難波君はいるし谷村さんがうまいことリラックスさせてくれたおかげで順調にリハーサルは進み、前半のハードロックな部分は1週間もかからずに出来上がりホッと一息。

しかし、ここでいきなり谷村さんのドッキリ発言「後半は松浦もアコギやってよ」内心アレレレレーッとは思ったけれどハイと言うしかしゃあないわな。後半の曲は演奏せんでええと勘違いしていた僕がアホやったんです。でもよーく考えてみたら西岡たかしさんのバックをやったときもアコースティックギターはやってたし、リズムギターを弾くぶんには問題はないなと引き受けたのですがリハーサルが進むにつれ事情が変わってきました。

「秋止符」という曲で僕のギター一本で谷村さんが歌うことが急遽決まった。基本的には簡単なアルペジオの伴奏やったのですがリハのときでも毎回緊張しました。それもハンパな緊張と違うかったなあ。70回も80回もコンサートツアーで演奏しましたが毎回緊張してました。というのもこの曲は谷村さんが客席に下りていってファンの方たちとコミュニケーションをとりながら歌うという場面だったので、隣同士で演奏するのとは違い谷村さんの動きを視野に入れながら演奏しないとどうしてもちょっとしたタイムラグがでるんやないかという心配があったりで毎回が真剣勝負でした。そういうわけでこの曲は今でも目を閉じて何も見えずでも演奏できます。違うかあ!!!

ツアーはこんな具合で緊張する場面があったり、谷村さんのMCがあまりにおもしろいので、マジで笑い転げてしまって前の方のお客さまに迷惑かけたりで。でも有名なヒット曲が盛りだくさんの素晴らしいコンサートでした。ツアーにエンジンがかかってきたころ、僕にとって初めての海外コンサートツアーが敢行されました。香港、シンガポール。タイのバンコック、どの国も刺激的でした。

香港は当たり前やけど異国情緒たっぷりの大都会で2DAYS公演。日本の電圧は100ボルトですが、香港は220ボルト。その関係でアンプから出てくるギターの音が全然違うのです。まるで外タレのようなすごい音がして一夜にしてギターが上手くなったのかと勘違いするようなそれは素晴らしいサウンドでした。ステージと客席の一体化したムードが言葉の壁があるはずなのに、その壁がかえっていい効果になってるのかなと思えるくらい良くてとにかく香港バンザイでした。

いまでは大好物の香菜(パクチー)の洗礼を受け初めて飲む紹興酒にも戸惑いはしましたが街場の屋台の中華の旨かったことといったら。ハワイのカニ以上に感動の後シンガポールへ移動。シンガポールといえば、アジアツアーに出発する数日前に谷村さんに話があるから楽屋にちょっと来てと言われ、何の話かなあと色々考えを巡らせていましたところ「松浦 髪ちょっと短くしてくれへんか?今の長さやと松浦だけシンガポールに入国出来ないらしいねん。申し訳ないけど頼む」と言われ変な国やなあとは思いましたが谷村さんに直々御願いされたらしゃあない。というかツアーに行けないのはゴッツイ困るので、バッサリでもないですが無難な程度に短くカットしました。

お蔭様をもちまして、シンガポール無事入国。むせかえるくらいの暑さと南国特有の甘―い匂いがして緑がすごく濃い美しい国でした。掃除がこれまた行き届いており、街にゴミがひとつも落ちていない。香港とはうって変わってざわざわしていない所が気にはなりましたが、,豪華なホテルに泊まれたしええコンサートが出来たので短髪のことはもう忘れていました。しかしチュウインガムも禁止やし、ましてや量にもよるらしいですが大麻や麻薬などを所持していたら死刑やとはお見事な国には違いありません。それでも屋台へドラムの松藤君と繰り出して1メートル近くはありそうな巨大イセエビに舌鼓状態でありました。

さて最後の訪問国タイのバンコック。ツアーといえども仕事ですからなるべくホテルの中で食事をするようにという御触れがあり、楽しみにしていたタイ王宮料理と舞踊の夕べもスキヤキディナーに変更ということで何か微妙な空気を薄々は感じていたのですが、次の日の昼にまた松藤君とホテルを抜け出し中華を食べに街に出掛けたのが運のつき。キレイなレストランだったし料理もおいしかったのですが、お勘定のとき席を立とうとしたところ松藤君のショルダーバッグが影も形もなくなっていました。

お店の人総動員で探し回りましたが結局は出てこずじまい。大切なカメラと自慢のハンティングワールドのショルダーを失ってしまいました。だから言わんこっちゃないとみんなに叱られました。聞くところによるとこんなのは日常茶飯事やそうです。まあ自己責任ということでいざコンサート会場へ。砂埃が舞う道を30分ほど行った所の体育館がその日の会場でした。ここでも熱烈歓迎。「昴」が始まるころにはお客様がみんな涙を流している。遠い日本を思い出しておられる方はもちろんのこと、地元の人も感動してくれている。この光景は忘れられません。ホンマに心から音楽を聴いてもらえてるのを目前にさすがに僕もグッときました。

そしてコンサートは無事終了。この夜の打上げもなぜかまたスキヤキディナーでした。ウーンなんでやろかなあと疑問を残しつつ帰国の途へ。バンコックー成田間はJALのDC―10という飛行機でした。離陸して食事が終わったころに乗務員の方が「いやあ、今日は機体が重くて滑走路ギリギリでやっと飛んだんですよ」とホンマとも冗談ともとれる微妙な話をしてきたのには思わずゾッとしました。バンドの機材が半端やないくらいの量でしたから。

そうこうしていますと今度はエアーポケット。ゴッツイ急降下したはずです。一瞬の出来事でしたが、僕は死ぬんちゃうかと本気でビビリました。しかし無事ランディング。さあ成田に着いたら次の日は徳島公演。休む暇なしの谷村新司ツアーです。ところがその徳島で僕の体調がどえらいことに。それは次回のお話ということで。

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コメント (2)

二星ひとみ:

谷村さんとお仕事なさっていたのですね・・・知らなかった。

ワタシはガキの頃からちんぺいちゃんファンでして。

サンチカ(笑)に小さな放送局がありましたよね?あの中でたしか「ベッコスクエアで会いましょう」(ちゃうかな?)を良く聴きに言ってましたしコンサートにももちろん。

ガキんちょなのでもちろん保護者同伴。コンサート半ばでだ~っとステージ前かぶりつきまで行って写真を撮ってもなぁ~んにも言われない時代でした・・・ホールですよ?もちろん終わればべーやんやきんちゃんと握手。
思えばいい時代でしたね。

懐かしい。松浦さんアコギの『昴』聴きたかったなぁ・・・

で。体調がどうなったんですかっ?!

木下とうきちろう:

松浦さんこんにちは。
初めて書き込みます。

そうだったんですか・・。
谷村さんのバックで演奏されていたとは知りませんでした。
僕は当時アリスファンで難波正司さんとはアリスのファイナルに近いコンサート会場でお会いしています。姉が難波博之さんのファンで西の難波と東の難波という話をよくしていました。
僕は松浦さんのスライドギターがすごく好きで岡山の西日本放送の公開ライブで松浦さんとお会いすることができました。
ちょうどHIPツアーのころで軍服ファッションがすごく印象的でした。
高校卒業後は大阪の関テレ近くのローリーポップというカフェバー(私語?)で松浦さんを発見したのですが緊張し声をかけることができませんでした。そのときはトニーラマのウエスタンブーツではなく当時サーファー(死語?)がよく履いてたエスファドリーユ?を履かれていましたね。

今年アリスは全国ツアー。
僕は倉敷か大阪で見ようと思いますが松浦さんのギターをバックに歌うアリスがまたいつか実現すればいいのにと思います。

岡山に先輩の経営するDesperadoというライブハウスがあります。
新しく移転し作りのよいホールになっています。
是非岡山に来てください。
お待ちしています!:)

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