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第43話 “1年くらい遊んでてよ”、のはずが

午前中は会社に来なくてもよいとは言われたものの、新入社員としてはそれではアカンやろと思い、始業時間に出社する日々がしばらく続きました。そやけどやっぱり何もすることがない。

‘聴き振り’にも限界がありましたし、かといって電話に出たら出たで失敗もしました。
毎日のように通った渋谷のタワーレコード、六本木のWAVE 、銀座の山野楽器、山野楽器には当然楽器フロアーがあり、買いもしないのにあれこれギターを試奏させてもらったりしました。あまりにも頻繁に顔をだしすぎたのかある日「ツイストの松浦さんですよね?」と聞かれてしまいました。うそをついても何なので「今はディレクターをしているのです」とか言って名刺を出しちゃったりなんかして。この日をさかいに楽器売り場には行き辛くなってしまいました。

仕方がないのでちょっと足を延ばして御茶ノ水や神田、新宿界隈にも出没するようになり都内の大型レコード店、楽器店はほぼ制覇した形となりました。とは言いつつも店員さんと話すわけではなく、もっぱらウインドウショッピングをしていたという地味な毎日でした。


僕が毎日レコード屋等さんに通っているのを知った小坂さんがまた素晴らしいことを教えてくれました。「レコードは資料やから無駄のない程度に何枚買ってもええよ!!」
世の中が薔薇色にみえましたね。お給料を頂いて、交通費も支給されてその上レコードを買っていい。まさに理想の世界。ここに桃源郷を見ました。

そやけど、いざレコード屋さんに行くと何を買っていいのかが解からなくなってくるのです。これからやろうとしている日本のロックアーティストのディレクションにはきっと不要であろうところのサザンロックやブルースのアルバムばかりに目がいってしまう。それも自分が持っていないマイナーなバンドやマニアックなアーティストのものが欲しい。仕方がないので何も買わずに店をでることが殆んどでした。

そんな毎日を過ごしていたある日の昼下がり。小坂さんからちょっと話があるのでと言われてついていった先は4畳半くらいのせまくて陰気な小部屋でした。そこはアーティストルームと呼ばれていて、音の打ち合わせ等をおこなう場所でアップライトピアノが1台ポツンと置いてありました。

またなんでこんな狭い部屋で話すんかなと不思議に思っていましたら、小坂さんが何の前触れもなく「松ちゃん、ジュリーやらへん?」とおっしゃるではありませんか。
「???沢田研二さんですか???」と聞きなおすと「そうや」という答え。

まだ交渉の段階だけど、エピックと契約することになるかも知れないとのお話でした。沢田さんはゴッツイロックをやりたいと思っておられるそうで、ロックやったら松ちゃんやろうということに社内ではなったみたいで、僕に白羽の矢が当たったことがすごくうれしかったです。
タイガースは大好きやったし、井上バンドがバックを務めた数々の名曲も忘れられへん。ツイスト時代、沢田さんとテレビでいっしょになったら緊張したもんな。

しかーし、ディレクターになってまだ2ヶ月。それもやったことと言えば聴き振りとレコード店巡りのみ。きっと何のお役にも立てないと思いました。でもこの場で断るのも社会人としていかなものかと思い暫く考えさせてもらうことにしました。もちろんこのお話を頂いた直後に山野楽器まで沢田研二さんのレコードを買いに走ったのは言うまでもありません。この日からレコードを聴くイコールジュリーを聴くの日々が続きました。

そうしていますと不思議なもので沢田さんを担当してみたいという気持ちが芽生えてきました。丁寧&誠実にやれば何とかなるやろうと決意して、小坂さんに報告にいきました。
「沢田さん、力不足とは思いますがやらせていただきます」ところが小坂さんはなぜかうかぬ顔をしておられる。「松ちゃん、沢田さんとの契約はなくなってん」

僕の頭の中はジュリー一色になっていましたからとても残念でしたが、なぜか開放感もそこには同居していました。沢田さんとは一度も会っていないのにホンマに緊張していました。
「どんな話したらええんやろか?」「タイガースの時からファンでしたなんていったら嫌われるやろかなあ?」
頭の中がグルグルしていたもんですから気が抜けたといいますか、フニャフニャになってしまいました。

契約というものはそんなに簡単なことではないことも学びました。もちろんエピックサイドと沢田さんサイドに何かのトラブルがあった訳ではなくただ契約の条件が折り合わなかっただけの話で、これはレコード業界では日常茶飯事のことです。
そんなわけで華のディレクターデビューは先延ばしになってしまいました。

そのころ僕のデスクにはデモテープが毎日のように持ち込まれ、「こんなバンドあるんだけどライブ観に来て」とか「コイツ、絶対売れるからやってみないか?」というお話しが一挙に舞い込んでいました。
今考えるとアホやったなあと思いますが、2010年の今でも超一流で活躍しているバンド、ソロアーティストを僕は何組もお断りしました。小林君にも「松ちゃん、アホちゃうか。絶対売れるのに」と言われましたが、このアーティストを僕が売ってみせると心から思えるアーティストにはなかなか出会えませんでした。

そんなある日、丸山部長から「5月の連休に高校を卒業したばかりのバンドがオーディションを受けに来るので六本木ソニースタジオに来てよ」というお誘いを受けました。
「高校生のバンドか。まあ観に行ってみるか」とこのときは軽―く考えていました。
そのバンドが今でも親交の深いスパークスゴーゴーの前身バンド、ビーモダーンとはその時は知る由もありませんでした。

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コメント (1)

Boogie:

この頃だったのでしょうか。
世田谷のギターショップで松浦さんをお見かけいたしました。Zemaitisを抱えておられました。

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